平成15年7月
馬場 錬成 (科学ジャーナリスト)
弁理士情報年鑑 2003年版
<序 文>
1990年代後半から世界的に急増した特許出願は、いまなお右肩上がりを続けている。とりわけアメリカの急増は驚くばかりである。91年のアメリカの特許出願件数は41万件だったが、99年には259万件と実に6倍以上に増えている。外国出願に集中しているのが特長だ。 10年足らずに一国の特許出願数が6倍以上になったのは、産業史上初めての現象だ。
IT(情報技術)をツールにした急激な技術革新が、世界同時に広がっている。ITそのものの進化が速く、産業技術の急進展に連鎖反応を起こしている。産業現場にインバランス(不均衡)を起こし、IT関連の技術は突出して進化し続けている。
これはITを推進エンジンにした第三次産業革命である。いま産業革命のど真ん中に私たちは生きている。そのような明確な時代認識が必要だ。
2002年は、日本の「知財元年」であった。小泉首相は2月4日の施政方針演説で、国として知財を柱に据えた立国を目指すと宣言した。3月には首相官邸に知財戦略会議を設置し、7月には知財大綱を発表した。11月には、知財基本法を制定して知財立国への国の決意を示した。
2003年3月には、官邸に知財戦略本部を設置して首相が本部長に座った。7月には知財推進計画を策定して発表した。
たった一年半でこれだけの政策を推進したことは、後年、驚きをもって評価されるだろう。日本でも改革は出来るのである。
知財施策の政府の積極的な取り組みに比べて、守旧派の官僚、司法・最高裁、古びた法律学者らの態度は、驚くほど消極姿勢に終始している。一部では明らかに抵抗勢力となっている。
たとえば知的財産高等裁判所の創設に対して、司法当局、法律学者、一部の官僚らが反対の態度を示し、創設に抵抗している。知財裁判を利用するのは90%以上は企業だが、その企業や多くの弁理士、大学の研究者らが知財高裁の創設を望んでいるのになぜ反対するのか。自己権益、組織温存だけにとらわれているとしか考えられない。
知財立国への道筋は、まだまだ険しい。創造、権利化、保護のサイクルを強化するだけでなく、ユーザーの要望を無視する抵抗勢力とも闘わなければならない現実を考えると、知財の最前線で活躍する弁理士の役割とそれへの期待は大きい。
日本の産業競争力の強化は、知財強化と表裏一体の関係にある。アメリカは世界の頭脳であり、中国は世界の工場に成長した。日本はこの先どうするのか。単なる世界の試作品工場になるのか、先端研究開発現場になるのか。
知財強化は、日本の将来を占う要素となっている。このような状況を考えれば、弁理士こそ時代を担う旗手にならなければならない。
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